| 真暗い空からしんしんと降りつむもの。 絶え間なく次から次へ降ってくる雪に一面はたちまち白く化粧を施される。 まるでこってりと白粉を塗った娼婦のようだ、とディルクは窓から外を眺めていた。 降り積もった白い雪の上に、雪化粧をされて白く塗り替えられた聖堂が聳えている。 白い世界の中で、赤と青を基調にした聖堂の深い色のステンドグラスがやけに印象的だ。 確か…… ユリウスが13世紀につくられたものだと言っていたはずだ。 約300年の時を越えてなお、ステンドグラスは色褪せることなく深い色彩をもって 白い世界を唯一彩っている。 「…………」 そのステンドグラスを眺めていて、ディルクは今日が降誕祭だと思い出した。 普段であれば、こんな夜更けにあれほど鮮やかに色彩を放つことはない。 と、すれば聖堂に明かりが灯っているということだろう。 ディルクはマントを体に巻きつけ、寝室を出る。 古めかしい彫刻の施された外回廊に出ると、凍えるほどではなかったが、 それでも吐く息が白くなる程度には寒い。 ざくっ…ざくっ… 歩を進めるたびに足が雪に埋まる。 この白い世界が、娼婦の白粉のようだと感じたのは雪質のせいらしい。 聖堂の扉の取っ手を布を巻いた手で掴む。 ギイイと重苦しい音がそれまで無音だった世界に響いた。 「ディルク殿……」 聖堂にはユリウスが立っていた。 両手を前で組んでいるところを見ると、どうやら祈りを捧げていた最中らしい。 「こんな時間にどうなさったのです…」 ユリウスは静かに問う。 貴族や騎士で溢れかえったであろう深夜の荘厳なミサはもう一刻も前に終わり、 聖堂にはユリウス一人が残り、祈りを捧げていた。 「こんな時間に…風邪をひいてしまいます。お祈りでしたら早朝のミサにどうぞ。」 聖堂は幾分の暖をとってはいるが、お世辞にも暖かいとはいえない。 ユリウスの唇も普段の色を失っていた。 「お前こそ…休んだほうがいいのではないのか?」 「いえ、それはできません。」 「何故だ?お前こそ風邪でもひいたら…」 「ふふっ…心配してくださるのですか?」 「いや、明日からの調教に差し障る。」 「…………」 ユリウスは僅かに眉を寄せたが、気を取り直すように口を開いた。 「……この国の聖誕祭のミサには少し変わった伝統があるんです。」 「ほう。」 「聖堂を取り仕切る聖職者、ここでは私ですが――――」 ユリウスはおっとりとディルクに語る。 「クリスマス前夜のミサに灯した蝋燭の炎を見守りながら、祈るというしきたりが…」 「こんな寒い夜にそいつは難儀だな。」 「ええ。本音を言うと、私も暖かいベッドで眠りたいのですが…」 ユリウスは少し冗談っぽく肩を竦めた。 「この蝋燭の炎を守るのが災厄から民の暮らしを守るのだとか…逆に、万が一、 炎が消えることがあれば、この国は神のご加護を失い、翌日には全てが灰に帰すと……」 おそらく、ユリウスもそんな迷信など本気にはしていないのだろう。 首を傾げて苦笑する。 「……ふっ」 「あっ…」 ディルクは不意にユリウスの手を握る。 「こんなに冷えて……」 「デ、ディルクどの……」 「俺が暖めてやろうか?ふふふ……調教の延長だと思えばいい。」 「な、何を……ば、場所を、わ、弁えてくださいませ……ああっ!」 next→ |