「――――――――ん…」 ユリウスはゆっくりと瞼を上げる。 「ようやく目が覚めたか?」 「……え…あ……」 聖堂には仄かに朝日が差し込めていた。 「あと半刻もすれば早朝ミサの用意に他の聖職者どもが来るのではないのか?」 「あっ…!」 ユリウスは慌てて起き上がる。 その拍子にユリウスに掛けられていたディルクのマントが床に落ちる。 「あ………」 ディルクは無言で床に落ちたマントを身に着けた。 ディルクの唇がうっすら白いのにユリウスは気がつく。 「デ、ディルクどの……」 「何をぼけっとしている?さっさと身支度をしろ。」 「あ、は、はいっ………」 ユリウスは手櫛で髪を整え、衣服の乱れを正す。 「……ところでユリウス。」 「は、はい…」 「俺もお前も……城も灰にはなってないぞ。」 「えっ……」 ユリウスは慌てて祭壇の蝋燭に視線を向けた。 「――――――――!」 蝋燭の炎は見事に――――――――消えていた。 「ああ…そ、そんな……ど、どうしましょう…」 「何も焦ることは無いだろう?消えてしまったものはまた灯せばいいだけの話だ。」 ディルクがニヤリと笑う姿をユリウスは脱力して見つめていた。 「…………ふふっ。」 が、ユリウスはディルクにつられるように笑う。 「そうですね。その通りです。」 「ああ。それだけのことだ。」 「ではディルク殿が火をつけて下さいませ。」 「……………」 「私は火のつけ方を知らないのです。」 にっこりといつもの微笑みを浮かべるユリウスにディルクは小さく溜息をつく。 が、決して悪い気はしなかった。 「高いぞ。」 ディルクはそう言うと、火打石を取りだし、聖なる蝋燭に火を灯した。 END 05/12/23 |